おめん仮面の怖い話

雑記

世にはびこる怪談話。それらは決して愉快な話ではありません。

ではなぜ怖い話は今日に至るまで、尽きることなく我々の日常に溶け込んでいるのでしょう…

前回おめん仮面は、怖い話を聞きながらベトベトした夢を見ながら寝るのが好きという記事を書きました。

しかし、それはあくまでフィクションかノンフィクションか分からない話を、安全な自宅のお布団の中で聞いてるから好きなだけです。

安全な場所から、自分には関係ないと思っている話を聞き、刺激だけを求める…

それは怪談に限らず、ドラマや漫画で疑似体験で刺激を求める経験は皆さんもおありではないでしょうか?

しかし、その「刺激」が実際に身に降りかかってしまったのならば…

あなたならどうします?

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第一章

終わりの始まり

この話は、私が断酒治療の入院を終え、新しい生活を始める為に新居を探していた二年前の春から始まります。

もちろん退院したての私に余裕のある手持ちがあるわけもなく、第一の条件はできるだけ家賃の低い物件、それを第一に考え物件を探していました。

しかし、わがままな私は探しているうちに「広いに越したことはない。」「風呂とトイレは別が良い。」「買い物も楽にしたい。」と、どんどん欲が膨らみ、その条件にあった物件を探し始めます。

驚くほど簡単に希望の物件は見つかりました。全ての条件を満たしたばかりか、スーパーやレンタルDVD店、さらには歩いてすぐに駅やコンビニまであるオートロックのマンションの角部屋を見つけました。

さらにその部屋は、他の部屋は三万二千円であるのにも関わらず、その部屋だけ二万三千円だったのです。

当然、私は喜んでその物件の下見に行きました。確かに値段なりの部屋ではありました。床には引っかき傷のようなものがあり、向かい側はラブホテルでした。

そのホテルではたまにトラブルがありよくパトカーが来るという話も聞きました。

しかし、向かいのホテルでのトラブルなんて、部屋に入ってしまえば関係ありませんし、部屋の傷はカーペットさえ敷けば何ともないので、私はその下見で契約を決めることにしました。

仮に事故物件であったとしても、私は悲しいほどに霊感がありませんでした。

私は高校の頃、霊山の奥地に建てられた寮に住んでいました。

そこで三年間も住んでいるとやはり数名が何かしらの霊の姿を見たり、心霊体験をします。

私もその中で、夜中寮生が全員寮にいるにも関わらず、学校の閉鎖されている準備室から内線が掛かってくるという、誰でもその場にいたら見れるような、物理的に物が動く系の体験はもちろんしました。

しかし、幽霊を見たとか、何かの声が聞こえたとか、そう言った何となく半透明なイメージの心霊体験の経験がない私は、気にすることなく引っ越しに胸を躍らせていたのです。

少しづつ始まる異変

4月に引っ越しを済ませて、それからしばらく経ち夏が近づき始めたころ、マンション全体から異臭が立ち込めました。

そして、ある時私のマンションに訪れた父が「死臭がする。」と言い出しました。

もちろん私は嗅いだことがなかったので、いまいちピンと来ませんでしたが、それほどの激臭だったのです。

とはいってもどうしようもありませんし、特に事件、事故もなかったようなので、臭いに関しては暑い時期を終えるとそれで終わりました。

なので私は、マンションの住人はゴミの期日を守らない住人が多いし、早めに出したゴミが腐ったのだと思うことにしました。

そして、私の恐怖体験は定番の夏ではなくその後の真冬から本格的に訪れるのです。

第二章

迫りくる恐怖

冬になりもう完全に新しい生活に慣れていた日のことです。私は近隣トラブルに悩まされていました。

元々壁も薄く、隣の部屋の物音も聞こえていたため、私はこちらが発する物音には十分に気を付けていました。

退院して間もない、病み上がりの状態での人間関係のトラブルは、一番病気が再発しやすいと考えていたためです。

当然、テレビもYouTubeも全てイヤホンで聞いていました。

しかし、どうしても避けられない生活音と言うものがあります。それは換気扇と室外機です。

もちろん無駄にはつけません。しかしそのわずかな物音に、ついに「恐怖」が私の存在を嗅ぎ付け襲ってきたのです。

ある晩遅くに、私の家のインターホンが鳴りました。非常識な時間に少し不快感を覚えながらも、私は「何かあったのかもしれない…」と思い覗き窓を見ます。すると知らない女の人が立っていました。

「こんな夜更けに?」と思い心配してドアを開けると女性は「さっきお宅の換気扇がうるさかったんですけど…」と過去形で言ってきました。

私の記憶通りなら換気扇を使ったのは4時間ほど前…内心『苦情やとしても今言うか?』と思いましたが隣人トラブルだけは絶対に避けたい私は、すぐに謝りました。

そして私が「長時間つけないようにします。ただどうしようもない音ではあるので、最低限使う間だけはご勘弁いただけないでしょうか?」と下手に出ながら意見を言うと、女性は納得し、その日は帰って行きました。

換気扇は、お隣も同じ音が響いていたので『お互い様だろが』と思いましたが、グッとこらえその日は終わりました。

恐怖が管理会社にクレームを言い出す

そしてそれからしばらく経ったある日のこと、勤務先での昼休みの時間に携帯に一本の電話がかかってきました。管理会社からです。

内容は私の部屋の換気扇と室外機がうるさいとお隣からクレームが来ています。とのことでした。

しかし、これ以上音を抑えるには換気扇も室外機も全く使わないしか手がありません。私は本当に騒音レベルなのか確認して欲しいと、提案しました。

夕方には、大家さんも不動産屋も来てくれて検証が始まります。

実際にどちらも作動させて確かめてもらいましたが、満場一致で「むしろ静かなレベル」という判定でした。

とりあえず、今後隣からクレームが来たら管理会社がきちんと対応するという約束をしてもらい、その場は解散しました。

しかし、その直後です。大家さんたちがいなくなったのを見計らい、恐怖がまた私の部屋のインターホンを鳴らします。

どうやら、うちに来てどれだけうるさいのかを自分で確かめろとのこと。

私も一体どのくらいでワーワー言っているのかが気になり、私は自室の換気扇とエアコンをONにし、恐怖の巣に自ら足を踏み入れることにしました。

確かに二人で息を潜めて、無音の中耳を澄ますことでささやかにながら室外機の音が聞こえてきます。

むしろ聞こうと頑張らなければ聞こえない程です。

「この音ばかりはご勘弁願いませんかね?無駄にはつけませんので…」と私が言うと、女性はじゃあせめて対策はこっちでします。と今度はづかづかと私の部屋に入り、あろうことか室外機を若干真ん中にずらし、帰って行きました。

それがヤツの妥協案になったのか、それからしばらくの間、恐怖は大人しくなりました。

もう誰が聞いても恐怖の方が迷惑な行為を…

恐怖が大人しくなり、そして再び春が訪れたある日、私は大音量のヒーリング曲で目を覚まします。

もちろんその音はお隣から響いてきます。まさか癒しの音楽で攻撃してくるとは、しかも私が昔好きでよく聞いてた曲です。

騒音攻撃とともに、思い出を汚すような行為です。これは確実に私をつぶそうとしてるに違いねえと思いました。

そしてそれは、毎日毎日続きます。ひどい時は朝五時前からです。さすがに限界がきた私は恐怖の家のインターホンを鳴らしました。

インターホンを鳴らすと恐怖鬼の形相で飛び出してきます。

私が「さすがに音ひどすぎます…」と物腰柔らかに抗議すると…

もちろん話になりません、「換気扇と室外機がまだうるさい、そっちが生活音って言うなら私のこの音楽も生活音だ!」と一点張りです。

さらには「アンタみたいな人が料理なんてできるんですか?換気扇使わなくてよくないですかw?」と訳の分からない煽りをくらう始末。

私はゾッとしました。毎朝毎朝こんなにたくさんヒーリング曲を聞いているのにも関わらず、彼女から感じる醜く、底知れぬ深い心の闇

その恐ろしさのあまり私は逃げ帰りました。

そしてその晩。夜遅く、私がいつものようにベッドに横たわり動画を観ながら寝ようとしていると、またインターホンが鳴ります。

どうせまた、恐怖がなんか言いに来たんだろう。』と思い、誰が来たのか確認することもなく、私は舌打ちしながらドアを開けました。

「なに?」と怒鳴るようにドアを開けた私の視界に目を疑う様な光景が映り込みます。

ドアの前には、眉や鼻、口と耳までありとあらゆるところにピアスをつけた金髪のあんちゃんが立っていました。

てっきり隣の恐怖やいやい言って来たかと思ってたら、別のベクトルの恐怖が私の目の前に現れたのです。

しかも私は、舌打ちしながら睨みつけてドアを開けてしまっています。もう色々終わったと悟り始めた私に、金髪の彼は予想外の言葉を口にします。

「夜分遅くに申し訳ありません。私、下の階の者なのですが…さっきからずっと天井からガリガリ引っ掻く音が聞こえてきたものなので…」

私は、もうだいぶ前からベッドに寝ています。引っ搔くどころか歩いてすらいません。

そのことを彼に伝えると「ではこちらの部屋ではなかったようですね…不快な思いをさせて申し訳ございませんでした。」と謝罪し、去って行きました。

彼がいなくなるのを確認した私は、部屋の鍵を閉め、腰を抜かします。

なんて礼儀の正しい金髪ピアスだったのでしょう…

私は『この歳になってまだ人を見た目で判断するのか』と自分自身の未熟さが恐ろしく感じ震えがとまりません。

もちろん、その晩は一睡もすることができませんでした

最終章

暴れる恐怖

そして、翌日事態は一転します。ついに隣の恐怖が暴れ始めます。

明け方から、恐怖はベランダから何かを叫び、壁を蹴り続けるのです。

恐怖は窓の外から「クソガキが~、親呼べぇ~」とほにゃほにゃ叫んでいます。

私はさすがにガキという年齢でもないことから、恐怖の言動も内容も今まで以上にとても異様なように思えて、たまらず実家に逃げ帰りました。

恐怖の正体

心が完全に疲弊した私は、友人にこういうことがあったと、今までの出来事を話しました。すると友人は笑いながら「幽霊が引っ掻いてたんじゃない?」と冗談交じりに答えました。

私も最初は笑いながら話していましたが、何か引っかかります。そして、あることを思い出しました。そう、引っ越しの当初にカーペットで塞いだ、あの床の引っかき傷のことです。

そして全てがつながりました、全ては私の部屋が祟られていたのです。私と私の身内、つまり私の部屋に入った者だけが感じる異臭私の部屋だけが安い理由、そしてあの床の引っかき傷…

恐らく、あの部屋には悪霊的な何かが住み着いていたのでしょう…

その悪霊は私を怖がらせようとして、床を引っかいていましたが、霊感が全くない私は気づくことはありませんでした。

それにしびれを切らした悪霊は、気づいてもらうために隣の住人にとり憑いたのです。

そして私に突然攻撃的になったのです。もう、そうとしか考えられません。

悪霊が彼女の体を借りて夜な夜な床を引っ掻いているのだとしたら…

お隣さんを助けなければ!

それがわかった今、私はその部屋を引き払うことを決め、それと同時に私は隣人を救わなければいけないと考えました。

私の部屋の悪霊のせいで、関係ない善良なお隣さんを巻き込んでしまったからです。

しかし、スピーディーに引っ越しの手続きを済ませてしまったため、私には時間がありません。なんとか退去日までに彼女を救わなければ…

なので私は引っ越しの片づけも兼ねてその部屋に戻ると、壁に耳を当て確実に隣に彼女がいることを確認し、スピーカーを彼女の部屋の壁に向け大音量で勤行を鳴らします。

けたたましい南無妙法蓮華経が彼女の部屋に鳴り響きます。

悪霊が怒っているのか苦しんでいるのかは分かりませんが、壁越しに彼女の存在感がひしひしと伝わってきます。

それでも、私は勤行を鳴らし続けます。苦しいかもしれませんが、それもこれも彼女を救うためです。

片づけが終わり、後は引き払うだけの状態になったころ、壁から彼女の存在感が伝わることはありませんでした。きっと悪霊が体から離れ、元の優しく心の美しい女性へと戻ったのでしょう。

その後…

しかし、代償は大きなものでした。事情を知っている大家さんや管理会社にも、何度も相談しましたが「規則だから」とどうしても早期退去の違約金は払わなければいけないのでした。

私はたまに、ふと思うのです。あの時一刻も早く例の存在に気付き、勤行を鳴らしておけば、私は違約金を払わずに済んだのではないかと…

しかし、そんなことを考えていても仕方ありません。

今は新しい家でゆっくり過ごせているのですから。引っ越してから一年たちますが、今のところ穏やかに暮らしています。

エンドテラー

このように人は怖い思いをするために怪談を好んで聞きますが、自身が体験するとなると話は別です。

恐怖を楽しんでいたはずなのですが、「やはりこれはフィクションである。」と頭のどこかで思って安心していたのでしょう…

 

…おや?おめん仮面はまた刺激を求めているのでしょうか?今夜も怪談話を聞いて眠りに就こうとしています。

おめん仮面は今度こそ怪談を楽しめるでしょう…

奇妙な体験を経て手に入れたこの場所が、本当に安全であるのならば…

 

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